転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


92 女の美容にかける執念を超える怨念



 お父さんには魔法が発動しないからって大きな声を出しちゃダメって注意をしてから、もう一回索敵魔法。
 う〜ん、どうやら近くには居ないみたいだね。まぁ、あんな大きな声を出したんだから、小さな音でもびっくりして逃げちゃうブレードスワローが居るわけないか。

 と言う訳で僕たちは、ブレードスワローを求めてちょっと離れた場所まで異動する事になったんだ。


 ■


 ルディーンたちが森の中でブレードスワロー狩りを行っている頃。

 カランカラン。

「おはよう」

 ランヴァルト・ラル・ロルフ・フランセン元伯爵が日課となっている錬金術ギルドへの出勤? をしてくると、そこにはいつもとは少し違う光景が。

「どうしたんじゃ、ギルドマスターよ。午前中はいつも忙しく動き回っているおぬしが、朝からギルドにいるとは珍しいのぉ」

 錬金術ギルドのカウンターにはいつも店番をしているペソラではなく、ギルドマスターのぺトラ・バーリマンが座っていた。
 その姿を見たランヴァルトはその珍しい光景に、思わずそんな言葉を投げかけてしまった。しかし次の瞬間、何故ギルドマスターがここに居るのかに思い至り、

「いや、朝から居るのではないな。さては徹夜をしおったな」

 そう言い直す。
 さては昨日ルディーン少年が持ち込んだポーションを調べるのに夢中になって、家に帰らなかったのだろうと。

「伯爵。おはようございます」

「うむ、おはよう。してどうしたのじゃ、その顔は? やけに沈んでおるではないか。もしや一晩中調べても、昨日持ち込まれたポーションの事が何も解らなかったなどと言うわけではあるまいな?」

 ギルドマスターの力量を知るランヴァルトは、口ではそう言いながらも本気ではそのような事を思っては居なかった。
 だからこそギルドマスターの表情に疑問を持ち、カルグチを挟みながら問い掛けたのである。

「解らなかった? ええ、もしそうならどれだけ気が楽だったでしょうか。……伯爵、このポーションはとんでもない代物ですよ」

 そんなランヴァルトだったが、ぺトラからのこの言葉には少し怪訝な顔を浮かべる。
 なぜなら持ち込まれた二種類のポーションはどちらも規格外のものであり、彼女が言うとおりとんでも無い代物ではあったのだが、それは昨日の時点で解っていた事なのだ。

 それだけにぺトラが何故この様な言い方をしたのか、その意図を計りかねていた。

「ギルマスよ、ルディーン君が持ち込んだポーションはともに画期的なものじゃ。それだけに世に出せば大きな騒ぎになる事は昨日確認したじゃろう。じゃからそのような事は今更言われなくとも」

「違うんです。違うんですよ、伯爵。これを調べていて、本当にとんでもない事が解ったんです。そう、解ってしまったんです」

 そう言いながら頭を抱えるぺトラ。

「一体何が解ったと言うのじゃ? 肌を若返らせる効果以外に一体どのような」

「いえ、とんでもない効果が見つかったのは肌を若返らせるポーションではありません。もう一つの髪をつやつやにすると説明されたポーションなんです」

 はて? それはどういう意味じゃろう。

 肌を若返らせるポーションに何か付加価値が見つかったと言うのならばある程度想像がつく。
 例えば普通のポーションでは治らなかった古傷まで治してしまうとか、戦場で治療した為に癒着してしまって動きが悪くなった場所の治療が出来る可能性があるなど、高位の治癒魔法でしか直らないものを治す事ができるポーションであれば、それは確かにとんでもないものといえるであろう。
 そして持ち込まれたポーションはルディーン少年が治癒の魔力を込めているのだから、そのような効果があってもおかしくないと考えられるからだ。

 ところがぺトラが言うには、そちらではなく髪の毛用のポーションの方がとんでもない効果を発揮したと言うではないか。
 確かに髪の毛というものは女性にとってとても大切なものであろう。事実貴族のご婦人方にとって、ルディーン君が持ち込んだポーションは喉から手が出るほど欲しいものであるに違いない。
 しかし所詮は髪の毛、そのつやが増したり腰が強くなった所で、とんでもないと評すほどのものではないであろうと考えているランヴァルトには、ペトラがこんな表情を浮かべてまで訴える意味が解らなかった。

「伯爵。そのお顔からすると、髪の毛用のポーション如きに、何をそんな大げさなとお考えのようですね」

「いっいや、そんな事は無いぞ。ルディーン君が持ち込んだポーションの存在が貴族のご婦人方に知られれば、それを手に入れようと大変な騒ぎになる事など、わしでも想像がついておるわ」

「そうですね。ご婦人方に知られても、さぞ大変な騒ぎになるでしょうね」

 むう、ご婦人方ではないじゃと。ではどのような問題が起こるというのじゃろうか?

 ぺトラが言葉を発するたびに謎は深まるばかり。そしてその謎に対するヒントは問題になるのが髪の毛に効果があると言うだけでは、どうやっても答えにはたどり着けそうに無い。

「降参じゃ、ギルマス。その髪の毛のつやを取り戻すポーションに、一体どのような効果が見つかったのじゃ?」

 結局いくら考えても解らなかったランヴァルトは、両手をあげて降参のしぐさを示す。
 そしてそんな姿を見たぺトラはこう言うのだった。

「伯爵。ルディーン君が持ち込んだ髪の毛のつややこしを取り戻すポーションの製法は覚えておいでですわよね?」

「うむ。セリアナの果肉に卵と蜂蜜を混ぜ、それをポーションにしたものが、ルディーン君の言う髪の毛つやつやポーションじゃ」

「はい、その通りです。肌を蘇らせるポーションの材料である、セリアナの果肉に卵をと蜂蜜を混ぜたものが原料なんですよ」

 ん、何故わしが言った事を念を押すように繰り返したのじゃ?

 疑問に思ったランヴァルトはもう一度ぺトラが繰り返した言葉を思い浮かべる。

 そして……。

「おっおおっ! まさか!?」

 ある一つの可能性にたどり着き、ランヴァルトは戦慄を覚えた。
 もしルディーン少年が持ち込んだポーションに想像通りの、あの効果があると言うのであれば本当に血が流れるほどの争いが起こるかもしれないのだから。

「お気付きのようですね。そうです。髪の毛用のポーションの元になっているのは肌を若返らせるポーションです。そして髪が生えている頭皮も当然肌なんですよ」

「と言う事は、たとえ髪を失ったものでも」

「はい。このポーションを使えばふさふさです」

 考えてみれば髪の毛のつややこしは歳と共に失われる。
 それを若い頃のような髪にすると言うのであれば、それが生えている頭皮その物を若返らせる必要があるというのは簡単に想像が出来た。

「これは想像ですが、卵と蜂蜜は今生えている髪を修復し、セリアナに果肉の成分が髪の生えている肌を若返らせる効果があるのでしょう」

「となると、もしや肌用のポーションでも頭に使えば髪が生えてくると?」

 もしそうであるのなら、どちらも外に洩らすわけには行かないという事になってしまう。
 そう思ったランヴァルトはぺトラにそう詰め寄った。

 しかし彼女は静かに首を横に振る。

「いいえ。どうやらセリアナの果肉だけでは髪は生えてこないようです。髪の毛というのものがどのようにして生えているのか解らないのでなんとも言えませんが、きっとその生えてくる場所は髪の毛用のポーションに必要な3種の材料全てが必要なのでしょう」

 実はこのペトラの想像は当たっている。
 髪の毛の根元。すなわち毛根を復活させるポーションを作るのには、この3つの材料とルディーン少年が注ぎこむ治癒の魔力が必要だった。

「なるほどのぉ。して対策はないのか?」

「今の所はなんとも。とりあえず卵と蜂蜜にある程度髪のつやを取り戻す成分が含まれている事までは掴んだのですが、髪のこしとなるとどうやらその二つではどうにもならないようで」

「ふむ。ならばそちらはルディーン君にしばらくこの街に滞在してもらえるように交渉し、色々と試してからでなければ発表できぬようじゃのう。して、肌のポーションの方はどうなのじゃ?」

「伯爵、髪の毛のポーションの効果が解ったというのに、もう一つのポーションをいラベル余裕があったとお思いですか?」

「無理じゃろうのう」

 早ければ昼前、遅くとも昼過ぎにはルディーン少年はこの錬金術ギルドを訪れる。
 二人掛りとは言え、これからポーションを調べた所で碌な成果が得られない事が解っている二人は、お互いの顔を見合わせながら小さくため息をつくのであった。


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